侍芸術の最高峰を集めた大特別展、ニューヨークのメトロポリタン美術

門外不出の国宝多数出展
開催期間: 2009年10月21日~2010年1月10日
開催場所: The Tisch Galleries、2階
プレス・プレビュー: 10月19日、午前10時―正午

メトロポリタン美術館では10月21日より>侍の芸術:日本の武器、武具、1156-1868 展を開催します。この展覧会は日本全国60以上のパブリック、プライベート・コレクションから選りすぐった名品が一堂に会する一大イベントで、日本の刀剣・甲冑を中心に侍の芸術を総括的、且つ詳細に紹介します。展示作品は国宝34点、重要文化財64点、重要美術品6点、名物9点を含む、甲冑、刀剣、日本刀の鍔・拵え(こしらえ)、弓矢、馬具、旗、陣羽織、大名の装飾品、また侍を描いた屏風、絵巻物等合計214点で、この中には日本国外で初公開となる作品も多数含まれており、武家文化の真髄を刀剣・甲冑戦具等芸術を通して見せるユニークな展覧会となります。刀剣・甲冑を中心に侍芸術を総括的にみせる展覧会はこれが世界最初で最大規模のもので、展示作品には日本刀の最高傑作として知られる名刀、大包平(12世紀)や、三日月の前立て付き兜が圧倒的な存在感を放つ伊達政宗の鎧(16-17世紀)他、信長、秀吉、家康等日本を代表する武将ゆかりの品々がメトロポリタンの特別展ギャラリーに並びます。期間中12月の第1週に約60作品の展示替えが行われる予定です。

The exhibition is made possible by The Yomiuri Shimbun.

Additional support is provided by The Jessica E. Smith and Kevin R. Brine Charitable Trust, the J.C.C. Fund of the Japanese Chamber of Commerce and Industry of New York, Inc., the Oceanic Heritage Foundation, and the Japan Foundation.

Transportation assistance was provided by Japan Airlines.

The exhibition was organized by The Metropolitan Museum of Art, New York, the Agency for Cultural Affairs of the Government of Japan, and the Tokyo National Museum.

It is supported by an indemnity from the Federal Council on the Arts and the Humanities.

この展覧会のキュレーターであり、メトロポリタン美術館の日本武器、武具部門の特別顧問である小川盛弘氏は次のように話しています:「貸し出し交渉が兎に角大変でした。相手方を説得するのに数年を費やしたケースも珍しくなく、企画してからここまでここまでこぎつけるまでに10年以上もの年月がかかりました。でもお蔭様で日本でさえ実現するのが難しいと言われる展覧会にでき上がったと自負しております。神社やお寺が所有する今まで門外不出だった作品も沢山やってきますし、34点もの国宝が含まれております。この34という数は今まで日本から1つの展示会に貸し出された最高数の3倍以上にあたります。これもひとえに文化庁、東京国立博物館を中心とした国立博物館等のご理解とご協力の賜物と感謝しております。侍文化というと残念ながら単なる マーシャル・アートと誤解している方が多いのが現状です。私はこの特別展をとおして日本の中近世をリードしてきた侍文化がなんたるかを伝えたいと切に願っているしだいです。」

侍の歴史
日本では12世紀から19世紀の間、侍のエリート達が政治、経済、社会体制を支配していました。記録によれば武士の出現は10世紀に遡り、以後剣、弓矢、乗馬等の技術を磨いた武士達が、その武力を背景に勢力を拡大していきました。彼らは戦を重ねるごとに、勇気と忠誠心という美徳を重んじる精神の重要性や、人生のはかなさに気づき、又、富や社会的地位を維持する為には戦争技術の修得だけでは十分でなく、政治的、経済的、文化的素養も身に着ける必要があることを自覚するようになりました。そうして侍社会の上層部に高い教養を身につけた人物が増えていったのです。中には仏教、特に禅宗や浄土宗の後援者となる武将や、詩人や書家として名を成す武将もできました。

展示の概要とみどころ
侍にとってなくてはならない刀剣、甲冑、馬具等の武器・武具類は表道具として知られていますが、中でも刀剣と甲冑はそれらが勇壮な外見を演出してくれる道具というだけではなく、戦いで敗れた時はそれらが即自らを包む死に装束となることを念頭に入れて作られたため、侍にとって特別重要な意味を持つものでした。彼らはより芸術的に優れた表道具を手に入れるために莫大な私財を費やし、ありとあらゆる手を尽くして最高の道具を揃えようとしました。この侍の芸術 展 は、順に追って行くことで、侍の時代に欠かせなかった表道具の出現と発展が見て学べる構成なっており、絵や他の関連作品を交えて紹介することでより理解を深めるのに役立つよう意図されたユニークな展覧会です。

ギャラリー I: 考古学と平安時代(794―1185 )
展示は年代順に構成されており、第1ギャラリーには1185年以前の作品が出展されます。ここでのハイライトの1つは、12世紀の赤革威の大鎧(国宝)で、このタイプで現存するのはこの一点だけだといわれる大変貴重なものです。この作品は保存を考慮し一度につき2週間しか展示できない決まりになっているため今回は11月1日までの公開となります。これに代わり12月1日より14世紀の見事な鎧(国宝)が展示される予定です。

ギャラリー II 鎌倉時代 ( 1185―1333 )
「武士の魂」とも呼ばれる日本刀ですが、この特別展では5世紀から19世紀にかけて作られた数多の刀の中から厳選された最高の作品を紹介します。このギャラリーに陳列されるのは武家政治の体制が初めて確立された鎌倉時代の傑作の数々で、中でも13世紀に造られた「名物 大般若長光」(国宝)と呼ばれる太刀は室町時代( 1392-1573 )に銀2,250kgと同じ価値、6百貫の値が付けられたといいます。このすばらしい太刀は初め将軍家が所有し、後に有名武将達の手から手へと伝えられました。あの織田信長 ( 1534-1582 )もこの太刀を所有した一人で、姉川の戦い(1570)で功績のあった徳川家康 ( 1542-1616 )に信長から拝領されました。また正宗の傑作「庖丁正宗」の名で知られる短刀(国宝)の他、13世紀に造られた蛇の目をデザインした円形の螺鈿細工がほどこされている国宝の鞍と鐙もこのギャラリーに展示されます。

ギャラリー III:南北朝時代 (1336―1392)と室町時代
鎌倉時代の初めから南北朝時代の終わりまで日本はほぼ絶え間い戦乱で明け暮れました。社会的、政治的には激動の時代でしたが、一方で経済や芸術において革新的な変化をもたらした時代でもありました。このギャラリーに展示される作品で特筆すべき物に「紅地桐文散錦直垂(べにじきりもんちらしにしきのひたたれ)」(重要文化財)があります。これは直垂と呼ばれる上着とズボンから成る着物で、毛利家に伝来する資料には足利将軍義輝が毛利元就 (1497-1571)に拝領された品と書かれています。絹に金糸を織り込んで模様を表した豪華なで衣装で、このタイプで現存する物の中では最も古く且つ最高級の物です。

ギャラリーIV: 桃山時代 (1573―1615)
経済的に安定し戦乱から開放された人々のエネルギーから豊かでダイナミックな桃山文化が生まれました。このギャラリーのみどころの一つは、戦国の名武将、本多忠勝が所有したとされる甲冑で、鹿の角をあしらった見事な兜が印象的な16世紀の「胴丸具足」(重要文化財)と、その甲冑を身にまとい今最前線の戦場に臨まんと闘志をむき出しの忠勝が生き生きと描かれている肖像画が並べて展示されるところです。また豊臣秀吉(1536-1598)が所有したとされる品で豪華な蒔絵がほどこされた見事な鞍と鐙(重要文化財)、そして織田信長から豊臣秀吉に拝領されたとされる桐の紋を背中に背負った陣羽織もこのセクションに展示されます。その他に悲劇的人生の結末が今に語り継がれる戦国大名 浅井長政の肖像画が、長政の妻で伝説に残る美女お市の方の肖像画と並べて展示されます。

ギャラリー V: 江戸時代(1615―1868)
江戸時代には、武士が守るべき行動規範に沿った行動をとり、主人への忠誠心や名誉を重んじるのを武士の理想の姿とする“武士道”という思想が確立され侍の間に浸透していった時代でもあります。この時代の侍は、祖先から受け継いだ伝統的な美学と習慣を大切にしており、文武両立の武士こそ偉大な武士とされていました。このギャラリーにはこの時代に生まれた傑作の数々が展示されます。

みどころの一つは個性豊かな15点の変わり兜です。(第2ローテーション:12月8日) 蝶やカマキリをモチーフにした前立付兜や、五階建ての塔を頂に据えた兜等が並べられます。また18世紀の非常に珍しい女性の甲冑も展示されます。この作品は優れた金属細工、漆芸、皮細工を取り入れた江戸時代の甲冑の最高傑作の一つと言われています。屏風に描かれている戦、城、有名な武将たちを通して当時の侍や大名の日常生活や武芸に励む様子が伝わってきます。17世紀の屏風絵「長篠合戦」や小田切春江作「尾張徳川参勤交代図」という図巻、また最も敬愛される侍の一人宮本武蔵(1584-1645)が自ら作ったシンプル且つエレガントな「海鼠透」という鍔も展示されます。

展示カタログ
カタログの編集は小川盛弘氏、東京国立博物館の原田一敏氏(上席研究員)、文化庁の池田宏氏(主任文化財調査官)による小論文が含まれます。この分野をリードする彼らの卓越した知識、鑑識眼、長年積み上げた経験を結集することにより、比較的近寄りがたく難解な題材だと思われがちな武器・武具の世界を詳しく解説したカタログです(英語のみ)。Art of the Samurai: Japanese Arms and Armor, 1156-1868(メトロポリタン美術館発行)は当美術館のブックストアーで入手可能です。(ハードカバー65ドル、ペーパーバック45ドル)

The catalogue is made possible by the Samuel I. Newhouse Foundation, Inc.

Additional support is provided by Arthur Ochs Sulzberger and Allison S. Cowles, the Grancsay Fund, and the Doris Duke Fund for Publications.

教育プログラム
フィルムの上映、ファミリー・プログラム、ギャラリー・トーク等この展覧会に関係する教育プログラムが沢山用意されています。11月8日の「Sunday at the Met」というプログラムでは平安時代後期から江戸時代にかけての武器、武具についての講演を行います。

This Sunday at the Met is supported by the Japan Foundation.

展覧会の音声ガイドは、7ドル、メンバーは6ドル、12歳以下の子供は5ドルで貸し出されます。

The Audio Guide is sponsored by Bloomberg.

またこの特別展には付属展示として、日本政府の特別プログラムにより修復していただいた当館所蔵の9つの美術品が展示されます。このプログラムは海外の美術館に所有されている日本の美術作品を保存するために日本政府が行っている活動です。

クレジット
The exhibition is organized by Morihiro Ogawa, Special Consultant for Japanese Arms and Armor in the Metropolitan Museum’s Department of Arms and Armor; the Agency for Cultural Affairs of the Japanese Government, and the Tokyo National Museum, in the collaboration with Donald La Rocca, Curator in the Metropolitan Museum’s Department of Arms and Armor. Exhibition design is by Daniel Kershaw, Exhibition Design Manager; graphics are by Sophia Geronimous, Graphic Design Manager; and lighting is by Clint Ross Coller and Richard Lichte, Lighting Design Managers, all of the Metropolitan Museum’s Design Department.

メトロポリタン美術館ウェブサイト www.metmuseum.org

2009年10月14日

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